第10話 タイヤの最後 の巻
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ホッピー課長
新入社員、光陰矢の如しだな。
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新入社員
なんスか、いきなり。コウイン矢のなんちゃらって?
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ホッピー課長
お前は実によく働いてくれた。
遅刻多数、無断欠勤多数、幾多の注意にも我関せずでよく今までやってくれたよ。 -
新入社員
それって全然ほめてないっスけど、何かご褒美でもくれるっスか?
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ホッピー課長
この流れでご褒美くれると思うお前のそのゴキゲンな脳みそこそがお前の売りだったかもしれんが、それも今日で終わりだ。
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新入社員
終わりって・・・まさか。
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ホッピー課長
三年にわたる勤務が今日で終了だ。退職おめでとう。
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新入社員
??? 退職?俺がっスか?
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ホッピー課長
ああ、解雇じゃないぞ。退職だ。俺が用意したこの紙に署名すればお前は今までの困苦から解放される。さぁ、書きたまえ。
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新入社員
ちょ、ちょっと待って。なんで急に。
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ホッピー課長
君はまだ若い。人生ならいくらでもやり直せる。さぁ、署名を。
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新入社員
・・・労基署行っていいっスか?
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ホッピー課長
ちっ、仕方ない。今回は保留にしとくか。
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新入社員
・・・。
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ホッピー課長
そういや、社員もそうだがタイヤにも終わりがあるのを知ってるか?
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新入社員
課長、今すごく問題発言してると思うんスけど。
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ホッピー課長
いいんだよ。所詮コラムだし、こんなの本気にするほど人類は退潮しとらんだろ。
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新入社員
・・・まぁ、なんかわだかまり満載ですが、いいっス、話に乗りましょ。
タイヤの終わりってなんスか? -
ホッピー課長
お前たち庶民が想像するタイヤの最後ってどんなものか言ってみろ。
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新入社員
いちいち上から目線の言い方が気になるっスけど、タイヤの最後ってここのタイヤ屋さんみたいにタイヤ交換したらそれで終了じゃないっスかね。
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ホッピー課長
ブッブー、不正解。
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新入社員
・・・。
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ホッピー課長
一般に日常を送ってるとゴミが出るだろ、そのゴミはどうする?
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新入社員
指定された曜日にゴミ袋に入れたりして持ってってもらってるっスけど。
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ホッピー課長
ちゃんと分別してるか?
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新入社員
当然っスよ。燃えるゴミ、燃えないゴミと資源ごみとか・・・。
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ホッピー課長
タイヤも同じだ。交換された古いタイヤはちゃんと分別される。
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新入社員
どう分別されるんスか?
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ホッピー課長
まず二種類に分別される。
「使えるタイヤ」と「使えないタイヤ」の二種類だ。 -
新入社員
ほー。
①使えるタイヤについて
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ホッピー課長
まずは「使えるタイヤ」だが、要は再利用できるタイヤだ。
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新入社員
え?交換したタイヤってまだ使えるんスか?
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ホッピー課長
今はリサイクルの時代だぞ。たしかに摩耗したタイヤでも使えるのなら使った方が優しい世界だろうが。
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新入社員
まぁ、そうっスけど。なら中古タイヤとして使うっスよね。
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ホッピー課長
そうそう。世の中には様々なニーズってものがあるからな。あと一年で車買い替えるから新品いらないやって人もいれば、新品だと高いけど中古なら安いからいいやって人もいる。
あと国内だけでなく海外に輸出する方法もある。 -
新入社員
グローバルっスね。メイドインジャパンならたとえ中古でも海外では売れるってやつっスね。
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ホッピー課長
こういう中古タイヤとして生かされるのを鈴木タイヤでは「第二の人生を送る」と勝手に命名して心を込めて販売する。
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新入社員
じゃあ、第三の人生もあるんスよね。
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ホッピー課長
あるぞ。それが「使えないタイヤ」だ。
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新入社員
ホッピー課長、「使えないタイヤ」とか言い方が差別的で今の時代じゃ叩かれる恐れあるっスよ。
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ホッピー課長
なんでタイヤごときにオブラートを含めた表現しなきゃならないんだよ。
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新入社員
令和です。昭和とは違うんス。
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ホッピー課長
はいはい、わかりました。じゃあ「使われなくなったタイヤ」でいいだろ。
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新入社員
いいんじゃないっスか。
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ホッピー課長
ああ、面倒くせぇ世の中になったもんだ。
②使われなくなったタイヤについて
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ホッピー課長
で、「使われなくなったタイヤ」は明らかに摩耗しすぎてツルツルになってたり、損壊や老化したりして中古タイヤとして再使用できなくなった状態だ。
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新入社員
さすがにそういう状態じゃ再使用できないっスね。
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ホッピー課長
うむ。タイヤとしての使命は終わった。だが、まだ活躍の場はある。
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新入社員
おお、カッコイイっスね。燃えてきました!
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ホッピー課長
それ。
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新入社員
え?
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ホッピー課長
燃料として燃やす。
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新入社員
燃料になるんスか?
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ホッピー課長
そう。製紙工場とかのボイラー燃料とかで使われる。
もちろん丸ごと燃やすんじゃなく、細かく切断してチップ状にして固形燃料としてな。 -
新入社員
へーっ。
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ホッピー課長
それと燃料としてだけでもなく、さらに粉末状にしてアスファルトの材料にしたりゴム製品の材料として使われたりもする。
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新入社員
アスファルトとかあちこちのゴム製品とかの材料になるんスね。まさに第三の人生っスね。
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ホッピー課長
うむ。俺らは「日の当たらない日陰の人生」とも言ってるがな。
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新入社員
相変わらず弱者には容赦ないっスよね。
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ホッピー課長
で、新入社員にも第二、第三の人生を歩んでもらおうとせっかく解雇・・・じゃなかった、自主退職してもらおうと思ったが拒否られたから仕方ないので出向してもらう。
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新入社員
出向?うちにそんな子会社とかあったんスか?
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ホッピー課長
佐倉営業所に属しているフルーツ会社だ。
佐倉営業所近辺に自生している栗やドングリ、柿などを拾い集めて加工して販売する会社だがここ最近売り上げが低迷してな、そこで君に白羽の矢が立ったわけだ。 -
新入社員
なんスか、そのとってつけたような会社とストーリーは!
タイヤと全然関係ないじゃないスか! -
ホッピー課長
君の手腕を見込んでの出向だ。なに、結果を出せばすぐに帰れる。頼むぞ。
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新入社員
冗談じゃないっスよ。それに俺がいなくなったらタイヤ交換の作業とかどうするんスか!
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ホッピー課長
大丈夫だ。ちゃんと後釜は用意してある。新入社員の新入社員くんだ。
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新入社員くん
こんにちは、新入社員の新入社員くんです!
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新入社員
・・・誰だお前は!名前も顔も俺そっくりじゃないっスか!
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ホッピー課長
そりゃそうだろ。お前の生き別れの兄弟だからな。
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新入社員
ええっ!?
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新入社員くん
お久しぶりです。お兄さん、いや弟かな。
突如現れた自分にそっくりな姿の男、しかも本人は実の兄弟と言い放つ。
混乱する新入社員、笑みを浮かべる新入社員くんと名乗る男、そして何かを胸に秘めるホッピー課長。三者の思惑がぶつかる中、今日も町のタイヤ屋さんは通常営業をする。
次回、最終回「バーストする世界」
ホッピー課長のワン!ポイントアドバイス
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ホッピー課長
人と同じようにタイヤにも第二、第三の人生があるんだワン!